前回は洪水被害にスポットを当ててリスクマネジメントを考えてみましたが、今回はそもそものクリニックの保険について考えてみたいと思います。
テナント開業の場合、クリニックの火災保険は賃貸借契約の仲介をした不動産業者からの案内で契約されていることが多いのではないでしょうか。不動産業者が入居者である先生に火災保険を案内する主な目的は、万一先生のクリニックが火元となって火災が発生した場合に、大家さんに対する賠償責任を果たすために「借家人賠償責任保険」に加入してもらうためと言えます。
この「借家人賠償責任保険」は一般的に単独では販売されておらず、火災保険とセットで契約する必要があるため、不動産業者が入居者である先生に火災保険を強く勧めてくるのです。
一方、院長がクリニックの火災保険に加入する目的は、火災や落雷、洪水などの災害や、交差点付近で車が飛び込んでくるなどの事故、診療所あらしなどの犯罪被害を受けた場合に補償を受けるためといえます。十分な補償を受けるためには、導入されている医療機器や設備に応じた内容の火災保険に加入しておく必要があります。先生は、加入に際して医療機器や設備の種類、内装の工事費など詳しいヒアリングを受けて契約をしていますか?
そんなことを聞かれた覚えはない・・・という先生は契約内容をご確認ください。
また、契約内容や保険会社によって、ユニットなどの医療機器は「減価償却された時価額までしか補償されないタイプと、同等のものを再購入する額まで補償されるタイプ」、うっかりハンドピースを落として破損したものまで「補償する保険会社と、補償しない保険会社」に分かれるのです。
もっとも見落とされているのが「診療報酬の補償」です。
自宅が被災したのであれば、建物や家財道具が火災保険で復旧できれば、経済的な損失は回避することができます。 しかし、収入を稼ぎだすクリニックには、医療機器や内装などの「物」に対する補償だけでは事が足りないのです。
偶然に、被災した直後の歯科クリニックの前を通りがかったことがあります。ボヤ程度で鎮火した模様でしたが、消火活動のために院内は水浸しとなり、カルテは散乱し、壁は煤け悪臭を放つ無残な状態となっていました。ボヤでも、診療再開までには相当な期間を要してしまうことを再認識させられました。
被災されてしまった院長からは、ちゃんと保険に加入していたつもりなのに、「減価償却された額までしか補償されなかった」「スタッフの人件費やリース料・開業資金の返済など、休診中の支払いや生活費のことまでは考えていなかった」 「被災したクリニックに休診中の運転資金を融資してくれる金融機関などなかった」など、悲痛な声が寄せられます。
物的損害の大小にかかわらず、診療再開までに期間を要してしまえば、診療報酬を失うという損害は拡大していきます。収入を失うなかで人件費やリース料など固定費の支払いや開業資金の借入の返済を迫られ、運転資金はあっという間に枯渇してしまいます。移転するとなれば、診療再開までに相当な期間の休診を覚悟せざるを得ません。 診療再開できるのを「今か今か」と指をくわえて待っている間に、経済的な体力はどんどん削がれていくのです。休診中の診療報酬の補償がなければ、クリニックの再建は困難を極めてしまうのです。
診療報酬の補償は、近隣火災からの類焼や、集中豪雨による浸水、台風や竜巻の突風被害、落雷による医療機器の故障、航空機の落下や交差点付近では車の飛び込みなどによる休診を補償してくれますが、保険会社によって異なるのが、パンデミックによる休診の補償です。
仮にエボラ出血熱の感染者が国内で見つかったとします。追跡調査をしたところ3日前に歯科治療をしていたことがわかれば、その歯科クリニックは閉鎖・消毒となるのではないでしょうか?そんな感染症による休診も補償を受けられる保険会社と、受けられない保険会社に分かれています。医療機関の場合は、感染症による休診補償も押さえておきたいといえます。
ビル診で診療報酬が7,000万円程度のクリニックの場合、休診補償の毎月の保険料はわずか1,800円程度です(地域や保険会社、契約内容によって異なります)。
生命保険は嫌というほど勧められていても、この保険料が安くて重要な補償がだれからも勧められていない院長が多いのです。こんなはずではなかったと嘆かないために、すぐにクリニックの保険の契約内容をご確認をすることをお勧めいたします。
だれに相談していいかわからない、中立的な見解を聞きたいという先生はメールでのご相談を受け賜ります。対面でのご相談をご希望の先生は、お近くのリスクマネジメントが提案できるコンサルタントをご紹介させていただきます。
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